苦労した点とその対策

撮影時期が真冬(2月)だったため、屋外の気温が低くiPhoneのバッテリーの減りが早い

ポケットなど常に人肌に触れるところにiPhoneをしまう、本体にカイロを貼るなどで対策


録画中にフォーカスを変更する場合、iPhoneの画面を操作しなければならず画が揺れてしまう

事前に想定しながらカット割りを考える、細心の注意を払って操作するなどで対策



撮影アプリは『Filmic Pro』を使用

「iPhone 13 Proは当時の最新機種とはいえ、映画撮影に特化した要素としてはスローモーションで撮れる程度だったので、撮影時はFilmic Proという動画撮影アプリを使用しました。Filmic Proを使うことでコマ数の変更が可能になります。標準のカメラで撮影する場合は30コマでの撮影になるんですが、Filmic Proを使用することで映画でよく使われる24コマでの撮影が可能になります。加えて、フォーカスの操作やLog撮影ができたり、色味をいじりやすいという点でも扱いやすかったため、今回の撮影に採用しました」(武藤さん)



iPhoneを使った撮影の様子

美術学校内でオークとグムが戦闘するシーン。スタッフそれぞれがiPhoneを手に持ち撮影した。



屋上でオークとグムが戦闘するシーン。武藤さんがふたりの周りを動きながら手持ちで撮影した。



iPhoneを三脚で固定し、クローズアップした人形を手で上下左右に動かして、空中にふわふわと舞っているように見せている。



物語冒頭に登場する2体のカエルの人形。iPhoneを装着したジンバル構える武藤さんを台車に乗せ、スタッフが後ろに引きながら撮影した。



美術学校内での360度アクションシーンは、ジンバルをつけたiPhoneを持った武藤さんが、オークとグムの周りを走りながら撮影した。







iPadでの合成用絵コンテ制作

アナログでの制作からデジタルへ

紙の制作で煩わしかった部分がiPadの導入により快適に

現場で絵コンテの仕事をしていたときは紙で制作をしていたんですが、紙は環境に影響を受けやすく、例えば雨の日は紙がしけますし、風が強い日は飛んでいく、夜は暗いので自分でライトを照らさなければいけない。とにかく外で描くのには相性が悪くて困っていました。

その当時、家ではiPadで絵を描いていて、漠然と「iPadで絵コンテの仕事ができたらな」とは思っていたんです。ただ、当時のApple Pencil(第一世代)には問題があり、ペンを直接iPadに挿すことでしか充電ができませんでした。ちょっとテンションをかけるだけで壊れてしまいそうなくらい不安定だったので、これでは現場に持っていけないと感じていました。

そんな折、第二世代のApple Pencilがマグネットで充電できるようになったと知り、早速購入して現場で絵コンテを描いてみたんです。すると、予想通りiPadのほうが作業が捗ると分かりました。また、紙のときは最終的にプリントアウトしたものをスキャンしてメールで送ったりしていたんですが、元々デジタルであればPDFで書き出して送れば済むなど、諸々の工程も楽になりました。iPadは気温に弱く、真夏や真冬は稀に電源が落ちてしまうなどデメリットもありましたが、マイナス部分をカバーできるほどメリットが大きかったので、それ以降iPadで仕事をするようになりました。

オークの絵コンテは、アプリ「CLIP STUDIO PAINT EX」を使って描いています。絵コンテは基本的に左側の絵と右側のキャプションのふたつの要素で構成されますが、矢印をうまく使ってキャラクターやカメラ、エフェクトの動きを表現することが重要になってきます。


グムが指輪を光らせ、指輪が炎となり奥にいる魔女を拘束するカット。


ハイスピード撮影の略で、スローモーションのこと。

アニメーションのコマを抜くことで動きを速くする手法のこと。










『オーク』徹底解剖!シーン別メイキング

初変身シーンはシルエットをメインとした”大人な魅せ方”にしたいと考え、生まれたカット。オークの後ろには照明スタッフがおり、上からライトを照らすことで影がカメラ側に向かって伸びるよう工夫を凝らした。

トイレで撮影されたシーンは、撮影した時刻が20時半を回っており外は真っ暗な状況だった。照明スタッフが外からライトを照らし、昼間に見えるようライティングをして撮影に臨んだ。

敵役となるグムが空間から石を生み出すシーン。現場では、スーツアクターに好きなポーズで上に空間を生み出すような演技をしてもらい、後からエフェクトを合成している。

離れた場所から一瞬でオークに詰め寄るグムや、かなりの距離をジャンプするオークなど、物理的に不可能に見えるバトルシーンはカットを3つに分け、後から繋ぐことでワンカットのように見せている。

爆発のシーンは、キャノンと呼ばれるラッパ型の筒にセメントの粉を入れ、スイッチで爆発させている。本作の爆発シーンは基本的に全てこの方法で行われた。

グムがオークにパンチを繰り出し、壁を破壊するカット。別途制作された壁を1発で壊さなければならないため失敗の許されないシーンだったが、見事成功しiPhoneのカメラに向かって綺麗に瓦礫が飛んだ。

オークとグムが殴り合い、落ち葉が舞うシーン。「シリアスなシーンですが、チーム全員で一斉に落ち葉を投げ飛ばして、楽しみながら撮影しました」と武藤さん。

グムの死後に流れるシーン。手前にはグムに手向けた花があり、右上の柵は十字架に見えるよう画を切っている。中央には物語冒頭に登場したカエルの人形が壊れた姿で置かれており、グムの結末を示している。








自主制作をうまく進めるために

チームで作る自主制作

いかに楽しんでやれるかが最も大事なこと

自主制作をうまく進めるためのポイントは、弱点を強みとして考えることです。iPhoneで撮るから皆がカメラマンになれる、少人数だから自分たちのアイデアが使いやすいなど、弱点をポジティブに捉えましょう。

信頼できる仲間を集めることも大切です。熱量だけでなく技術も含め、高みを目指した感覚で一緒に戦えるかを見極めることが重要です。

また、自主制作はスピードが命。期間が延びるほど熱量は下がっていきます。「やろう!」と言った瞬間が最も熱量が大きいので、勢いが死なないうちにどんどん進めましょう。

そして、最終的には全力で楽しむこと。皆好きでやっていることだからこそ、シビアになりすぎず、いかに楽しんでやれるかが自主制作を進める上で最も大事なことなのかなと思います。



お金がない、少人数でやるしかないなどの弱点

iPhoneなら皆がカメラマンになれるなどプラスを考えよう



仲間の熱量と力量を見誤ると自分が損をする結果に

人間関係の面だけでなく技術面も含めて見極めよう



チームで作る自主制作は時間が経つほど実現が難しい

走り出したら熱が冷める前にどんどん進めよう






今後の目標

「あのキャラクターが好きです」とずっと言ってもらえるデザインを生み出したい

僕は普段、キャラクターデザイナーやイラストレーターとして活動しているのですが、やっぱり特撮ものでキャラクターをデザインしたいという気持ちが強いですね。今回のオークのような自主制作の映像でもいいですし、特撮にキャラクターデザインで関われるなら何でも積極的にやってみたいと思っています。

将来的な目標としては、今の子どもたちが大きくなったときに「昔、あのキャラクター好きだった」ではなく、「今でもあのキャラクターが好きです」と言ってもらえるようなデザインを生み出せたら幸せだろうなと思っています。

そして、またいつか1時間くらいのドシッとした重みのある作品を撮れたらいいなと考えています。スポンサーになってくださる方がいればぜひご連絡をお待ちしています!



『オーク』スピンオフシリーズ公開中

● 公式YouTube


現在、オークYouTubeチャンネルでは『ORK’S Room』、『ORK’S Diary』などの新シリーズを公開中。「オークというキャラクターを使って、どんなことができるのか可能性を広げたい想いで試験的にやっています」と武藤さん。


オーク本編のスピンオフ作品『ORK’S Room』は全6話が公開されている。


『ORK’S Diary』は、毎週火曜・金曜に更新。本編にはない明るいテイストの内容となっている。